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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)2340号 判決

原告 小峯完助

右代理人弁護士 石川浅

被告 上野松寿

右代理人弁護士 堀内崇

主文

被告は原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和三十三年四月十日から支払ずみまで年六分の金員を支払うべし。

原告その余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分にかぎり仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

成立に争ない甲第一号証の一、二、同第二ないし第十号証の各記載、証人西谷誠一の証言、被告本人尋問の結果に本件口頭弁論の全趣旨をあわせれば、被告が原告主張の日時その主張の約束手形合計十通を振出し、そのうち原告主張の(一)の約束手形は受取人金子康造においてこれを原告に裏書により譲渡し、原告が現にこれら十通の約束手形の所持人であること、原告が右(一)の手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶されたことを認めるに十分である。

よつて被告主張の抗弁について検討する。成立に争ない乙第一、第二号証、被告本人尋問の結果により成立を認めるべき乙第三号証の各記載に証人磯村一、同西谷誠一の各証言原告及び被告各本人尋問の結果をあわせると本件各手形振出の事情は次のような次第であることを認めることができる。すなわち訴外株式会社不二紙器工業所は事実上訴外西谷誠一の主宰するところであつたが同会社は訴外磯村一の仲介で原告から約金百五十万円を借りていたところ一部を返済し、残額金三十万円が未払となつたまま昭和三十一年八月ごろ倒産した。その後西谷はあらたに金融業を目的とする株式会社中小企業金融相談所なる会社を設立してこれを主宰することとなり、株式会社不二紙器工業所の原告に対する右金三十万円の債務は新会社が引受けて支払うこととした。しかし、西谷は従来東京都民銀行に勤務しており、また新会社は金融を目的としている等の関係から会社名義で銀行取引をすることをはばかり、同会社の従業員である被告の名義で銀行の口座を開き被告名義で銀行取引をすることとし、被告もこれを承諾した。そのような関係から株式会社中小企業金融相談所は原告に対する前記債務の支払のために被告の承諾のもとに本件を含めて金額合計三十万円の約束手形を振出し、これが原告の所持するところとなつた。という次第である。

以上の事実によつて考えれば被告は右会社のため自己の名において銀行取引をする関係上自ら自己名義の手形を振出すことを承諾したものであるから、それによつて自ら手形振出人としての地位につくことを認めたものであり、決して手形債務負担の意思なきものということを得ない。この手形債務の実質的経済的帰属者が右株式会社中小企業金融相談所であること現に本件以外の金額十万円分の手形については同会社が出損して決済をつけたことはもつぱら被告と同会社との内部関係にすぎない。従つて被告としては適法な手形所持人からの請求に対しては振出人として、その義務を免れることはできないものというべきである。前記証人西谷誠一の証言及び被告本人尋問の結果中被告はたんに名義人にすぎずその振出にあたり手形債務負担の意思がなかつたものであるとの部分はとうてい真実にそうものとは解し得ずもとより採用できない。しからばこの点の抗争は失当である。

次に被告は原告との間にはなんらの原因関係がないから本件手形の支払義務がない旨主張するけれども右認定の事実関係によれば被告は訴外株式会社中小企業金融相談所のため同会社が原告に対して負担する債務支払のために本件手形を振出したものであること明らかで、そのこと自体本件手形授受の原因関係をなすものというべきである。本件が結局において右会社と被告との間で清算さるべき関係にあることは被告が本件手形の支払義務あることに影響を及ぼすものではない。この点の主張も理由がない。

しからば被告は原告に対し右手形金合計二十万円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であること記録上明白な昭和三十三年四月十日から支払ずみまでの遅延損害金を支払うべき義務あることは明らかである。原告は右遅延損害金の率について元金百円につき一日金六銭の割合を主張するけれどもその理由についてはなんら主張するところがないから、右率は年六分の商事法定利率によるべく、これを越える部分は失当である。

よつて原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余を理由のないものとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(判事 浅沼武)

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